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水月庵

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およし再び。1



まさかの女化なので苦手な方はお気をつけください…!




 盃に注がれた酒を飲み干した瞬間、体が熱くなった。熱い、いや、痛い。
「おまえら……酒に、いったい、何を……」
 盃を取り落とし、倒れこみながら、己の向かい側に座る二人の男に問い質す。
 彼らはまばたきもせず、じっと倒れこむ男ーー慶喜を見ている。
「何とか言えよ……、容保、春嶽……!」
 男達の名を呼ぶ。
 わからない。確かにこの二人とは仲良しこよしではないかもしれないが、幕政を担う者同士それなりに付き合ってきたはずで、盃に何か妙なものを混ぜられるような間柄ではなかったはずだ。
 だいたい、こんなことをしてこの二人に何の利があるというのか。
 まくし立てたかったが、上手く声が出ない。
 畳の上に倒れ、薄れゆく意識の中、二人が言い合う声が断片的に聞こえた。
「効果……確か……」
「性転換……秘薬……越前……蟹……雌雄……変え……」
「豚……効く……?」
「不明……試し……価値はある……」
 断片的というか、断片的ではあるのだが大事なところはだいたい把握できたような気がする。
 蟹。そうだ、越前の蟹は美味かった。
 そう思ったのを最後に、慶喜は意識を失った。



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清澄

「……見せもんじゃねえぞ」
 浅い眠りから覚め、俺の姿を認めるなり父はそう言った。
「これは異なことを」
 心外である。
 確かに俺にはほんの少しだけ、生き物の苦しむ様や変わり果ててゆく様を見ると嬉しくなってしまう傾向があるが、対象が実の父親とあっては話は違う。
 父親の苦しみを喜びとするほど終わっちゃいない。



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箱根旅情

箱根で参勤中の高松と彦根が出会っちゃう話。
彦根藩はたぶん美濃路経由の東海道ルートで来たから箱根にいるの…そういうことでお願いします…



「兄上様」
 高松藩家老、大久保主計(おおくぼかずえ)は寝そべる主君の隣に腰を下ろし、彼の肩を揺さぶった。
「ここ、露天風呂があるんですよ」
「露天風呂か……」
 彼の主君且つ異母兄である高松藩主、松平右京大夫頼重(まつだいらうきょうのだいぶよりしげ)は今すぐにでも眠ってしまいそうな声で主計の言葉を反芻する。
「いかがです?たまには二人で湯に浸かるというのは」
 肩を揺さぶりながら甘えた声で主計は誘った。

 今、二人は箱根湯本の宿場町にある本陣に滞在している。領国である四国高松から将軍のおわす江戸へと参勤する途上である。
 日ノ本の大名が領国と江戸を行き来することを定めたこの参勤交代という制度は費用の工面や道中の段取りなど何かと大変なことも多いが、主計はこの制度が嫌いではない。むしろ気に入っているくらいだ。
 何せ高松から江戸への十日余りの旅の間だけは、頼重の隣には自分しかいない。
 頼重の妻達も、そして江戸にいる頼重への愛を拗らせたかの副将軍もこの旅の途上にはいない。頼重を独り占めできる絶好の機会だ。

「わかった。行くから……四半刻経ったら起こして」
 そう言って頼重は目を閉じた。
「仕方ないですね」
 程なくして寝息を立て始めた想い人の髪をふわりと撫でる。構ってもらえないのは寂しいが、端正な寝顔をこうして独り占めできるというのも悪くない。



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木乃伊になった木乃伊取り

家茂死後の容保と慶喜。
ややおどろおどろしいので少しだけ注意。

 大坂城は未曾有の混乱に包まれていた。ここ半月の間、ずっとである。
 さる慶応二年七月二十日、将軍家茂が継嗣無きままこの城で没した。数え二十一歳の若さであった。
 その死は秘されてはいるがもはや公然の秘密。一刻も早く新たなる主を、と城中は浮き足立っていた。
 無論、この状況で幕府を背負って立つことのできる人間などたった一人に限られる。
 会津中将こと松平容保は控えの間で、その『たった一人』からの返答を待っていた。
 時折、苛立ったように扇子で床をコツコツと叩く。

「失礼いたします」
 一人の少年が控えの間に入り、容保の前に平伏した。


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禁じたはずの遊び

家茂くんが少し暴力的だしこいつらほんとどうしようもないので注意

夜半のことである。
 一橋慶喜が京での宿所としている東本願寺を訪ねた将軍家茂は、廊下ですれ違った思わぬ先客に軽く目を瞠った。
「これは上様。こないなところでお会いするとは奇遇におざりますなぁ」
 壮年のその人物は柔和に笑って慇懃に頭を下げる。
 中川宮朝彦親王。
 時の帝の懐刀として、また公武合体派の領袖として権勢を振るう人物である。攘夷派の者共からは魔王と呼ばれ忌み嫌われているが、その反面幕府にとっては心強い味方ともいえる。
「ここで何をしておられた」
 が、鉢合わせた場所が場所ということもあり、知らず不穏な物言いになってしまう。
「そない怖いお顔せんとっておくれやす」
 柔らかい上方言葉と秀麗な顔が何やら逆に魔王めいて恐ろしい。
「気になります? 私が、一橋はんと真夜中に二人っきりで何をしていたか」
 魔王に意味ありげに微笑まれ、家茂は怯むまいとその目を真正面から見返し、笑い返した。



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