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水月庵

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大江戸摩天楼

扉を開け放ち、露台に出るや否や強い風が前髪をなぶった。思わず目を閉じる。風がおさまるのを見計らって目を開けると、薄曇りの空の下に広がる巨大都市。ほんの数十年前にはただの寒村だったなど信じられない。
 いずれ自分のものになるであろうその都市を眼下に見下ろしながら、少年は自分の左手首に巻かれた包帯をするりとほどいた。そこにはざっくりと刃物で切り裂いた痕があった。もうほぼ瘡蓋になっている。その傷にそっと指を走らせる。何を思ったか瘡蓋を爪先で少しめくってみれば、ピリピリとした痛みが走った。めくれたところに血が滲む。
「あーあ、思い切りが足りなかったなぁ」
 欄干に体重を預けて、遥か高みから街を見下ろしつつ独りごちる。

 ここは江戸城天守閣。



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間違いと純愛

その日は、春だというのにやけに蒸す日だった。まだ梅雨入りには些か早いはずだが。
 大奥の将軍御座所で一人、昼寝を決め込んでいた家光は異様な湿気と、そして人の気配を感じてパチリと目を開けた。
「あら、お目覚めですの」
 もう少し寝顔を見ていたかったのに、と、いつの間にやら寝そべる家光の隣に座ってその寝顔を盗み見していたらしい女は笑った。
「いつからそこに」
 相手が自分の側室であるお万だと見て取ると、家光の表情もふっと和らぐ。ともすればもう一度寝入ってしまいそうな声で彼女に問うた。
「今来たばかりですわ。珍しくお一人で居られると聞いたもので。今日は蒸しますわね」
 お万が手にした扇を広げ、家光に風を送る。室内の湿気を吹き飛ばすような軽やかな涼風が家光の頬をくすぐった。



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クズ達のラブストーリー


 大仰な大垂髪に十二単。絹の塊のようなその衣装はちょっとした甲冑くらいの重さだそうだ。
 この日のために厚く塗りたくられた白粉は肌本来の赤みや柔らかさといったものを一切合切消し去っていて、いっそ不気味ですらある。
 この作り物のような女が僕の妻だ。
 緊張しているように見えなくもないその横顔を一瞥したきり、僕は彼女への興味を失った。
 視線を前に戻す。
 高砂に程近い場所に彼はいた。
 直垂を着て、隣に座る彼の兄と談笑している。
 ひとつ違いの僕の叔父。
 とても叔父さんなんて呼べやしない。今日も彼は綺麗だ。
 いつもの伊達姿も好きだけれど、こうしてきちんとした格好をした彼はこう、何というか、とても色っぽい。
 ああ、じゃあやっぱり彼にはいつもの姿でいてもらわないと。ただでさえこの人は身持ちが悪いんだから。
 じっと見ていると、さすがに彼も気づいたらしい。ちらりと僕を見た。
 束帯を着て高砂に座る僕に流し目をくれ、にやっと唇を吊り上げる。
 ああ、早くその唇がほしい。もうそれしか考えられなかった。



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都市伝説の姫





御三家二代目が酔っ払ってるだけ。



「おまえも千代なんだな、そういえば」
 水戸の従弟の顔をまじまじと見つめつつ、尾張藩主徳川光義はしみじみとした口調で言った。
 酒が回ってきたのか、ほんのり赤い顔をしている。

「は?」
 水戸の世子、徳川光国は怪訝そうに片眉を吊り上げた。



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弟くんの秘密



将軍×副将軍前提の紀州初代×副将軍


 朝方、自分の邸へと戻った頼房は、出迎えた使用人に兄の頼宣が来ていると聞いて慌てて自室へと足を運んだ。
 そっと襖を開けると、ごろりと寝転がってまるで自分の邸のように寛いでいる兄の姿があった。

「江戸へ着いて真っ先に可愛い弟のところへ駆けつけてみれば朝帰りとは。いいご身分だな、鶴千代」
「……前もって知らせてくれればちゃんと待って……いや、こちらから出向いたのに」
 頭上でひとつに束ねた長い髪を揺らし、鶴千代こと頼房が兄の傍らに腰を下ろす。
 頼宣はむくりと身体を起こし、仏頂面の弟の腕を掴むとぐいっと自分のほうへ引き寄せた。
 均衡を崩し、頼房は兄の厚い胸板へ倒れこむ。
 頼宣は空いた手で弟の長い髪を払い、露わになった首筋に鼻先を寄せた。
「湯の匂いがする」
 昨夜はお楽しみでしたね、と揶揄するように言われ、頼房はさっと顔を赤らめた。そして、頼宣の胸を押してその腕の中から這い出ようとする。
「久しぶりに会うお兄ちゃんに対して随分とつれないじゃないか。何か俺に隠しごとでもあるのか?」



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