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水月庵

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竹と鶴とときどき煙


竹千代(いえみつ)と鶴千代(よりふさ)がちょっと悪いことをする話。

 広大な江戸城の中。
 西の丸のさらに西、吹上の地では新たな屋敷を建てる工事が進められていた。
 その屋敷がちょうど完成した頃。
 侍女がしずしずと入ってきてかしずき、上様のおなりです、と告げた。
 寝っ転がって本を読んでいた僕は慌てて起き上がり、だらしなく着崩れた着物を直した。
 父上が僕に用とは、珍しいこともあるものだ。
 やがて、侍女が恭しく開けた襖から入ってきた父──二代将軍徳川秀忠は、ひとりの少年を連れていた。
 後頭部で結わえていてさえ艶々と長く、背中と腰を覆ってお尻のあたりまで届いている長い黒髪の少年。
 彼を見ると、少し顔が緩むのが自分でもわかった。
 彼とはこれまでにも何度か顔を合わせたことがある。



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陶工のミューズ




今回の頼重様は受け。

 その少年の出で立ちを見るなり、森島作兵衛は目を丸くして固まった。
 ぱちぱちと瞬きを繰り返す作兵衛に、十やそこらの少年は首を傾げた。
「おっちゃんどうしたん?」
 きゅっと上がった口角から声変わり前の可愛らしい声が漏れる。
「おっちゃんはないやろ、俺はまだ二十九……、いや君くらいの歳の子から見たらもうおっちゃんか……。
 というか、そうやなくてやな、自分その肩に担いでるもんは何なん」
 作兵衛は少年が肩に担ぐようにして持っているそれを指差した。
 ああこれ? と悪びれる様子もなく少年は言う。
「鳥やで。裏の山で猟ってん。これから捌いて焼いて食べるねん」


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雷雨が永遠なら

ひどい雨は夜になっても続いていた。
 時折空が激しく光り、ややあって全身を揺さぶられるような轟音がズドンと響く。
 普段は四季折々に花が咲き乱れ、まるで桃源郷のような美しさでそこにいる人々を楽しませてくれるここ小石川邸の庭も、今日は折からの豪雨に花は折れ、地面は水浸しで美しい面影はもはや見る影もない。
 また空が光った。
 轟音が邸を揺るがす。

「邸に落ちないといいけど」
 小石川邸の子供部屋では、水戸家の世子である七歳の千代松がそう言って障子を少し開け、部屋の外を心配そうに眺めていた。



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頼重危機一髪




頼重様転封の理由の後半は妄想120パーセントですぞ!

「おお光国、よく来たな。今茶を点ててやろう」
 小姓の先導で御休息の間に姿を見せた少年の姿に、家光は相好を崩した。
 彼が家光の前に腰を下ろすと、後頭部で結った髪がぴょこんとはねた。ごく私的な場とはいえ、将軍に拝謁するというのに見事なまでの婆娑羅っぷりである。
 それに、一応はきちんと着用している裃にもまだどこか着られている感じが否めない。
 が、家光は特段気にした風でもなく、手にした茶筅でシャカシャカと薄茶を点てはじめる。
「また背が伸びたのではないか?このぶんではいずれお父上を追い越すやもしれぬな」
「……恐れ入ります」
 変声期の名残りか、少し掠れた声で少年──徳川光国が応える。
「喉が渇いただろう。さ、まずは一杯」
 そう言って手許にずいと差し出された茶碗を持ち上げ、光国はそれを飲み干した。
 空になった茶碗を畳の上に戻しつつ、光国は物言いたげに将軍を見上げた。



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愛と情─或いは牛肉と納豆─




「拗らせ副将軍と大和撫子」の続編のような話。

 その日、彦根藩主井伊直澄は江戸の上屋敷で寛いでいた。
 今日は登城する予定もなく、家老に任せている国許にも大きな問題もなく、久しぶりにのんびりできる日だった。
 着流しに羽織を引っ掛けただけの姿で脇息にもたれかかり、ほっと息をつく。
 まもなく正午になろうかという頃。
 午後は少し読書でも進めようか。
 そんなことを考えつつ、半ば開け放した障子から真昼の庭を眺めていると、チリンチリンと鈴の音がした。
 直澄の顔がふっと緩む。
「玉藻、おいで」
 直澄が手招きすると、縁側から部屋へ入ってきた三毛猫は嬉々として主人の膝に乗った。
にゃあと鳴き、猫の玉藻は主人の膝で丸くなる。
 そうして穏やかなひとときを楽しむことしばし。

「殿、よろしいでしょうか」
 襖が開き、遠ざけていたはずの小姓が遠慮がちに姿を見せた。



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