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水月庵

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頼重危機一髪




頼重様転封の理由の後半は妄想120パーセントですぞ!

「おお光国、よく来たな。今茶を点ててやろう」
 小姓の先導で御休息の間に姿を見せた少年の姿に、家光は相好を崩した。
 彼が家光の前に腰を下ろすと、後頭部で結った髪がぴょこんとはねた。ごく私的な場とはいえ、将軍に拝謁するというのに見事なまでの婆娑羅っぷりである。
 それに、一応はきちんと着用している裃にもまだどこか着られている感じが否めない。
 が、家光は特段気にした風でもなく、手にした茶筅でシャカシャカと薄茶を点てはじめる。
「また背が伸びたのではないか?このぶんではいずれお父上を追い越すやもしれぬな」
「……恐れ入ります」
 変声期の名残りか、少し掠れた声で少年──徳川光国が応える。
「喉が渇いただろう。さ、まずは一杯」
 そう言って手許にずいと差し出された茶碗を持ち上げ、光国はそれを飲み干した。
 空になった茶碗を畳の上に戻しつつ、光国は物言いたげに将軍を見上げた。



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愛と情─或いは牛肉と納豆─




「拗らせ副将軍と大和撫子」の続編のような話。

 その日、彦根藩主井伊直澄は江戸の上屋敷で寛いでいた。
 今日は登城する予定もなく、家老に任せている国許にも大きな問題もなく、久しぶりにのんびりできる日だった。
 着流しに羽織を引っ掛けただけの姿で脇息にもたれかかり、ほっと息をつく。
 まもなく正午になろうかという頃。
 午後は少し読書でも進めようか。
 そんなことを考えつつ、半ば開け放した障子から真昼の庭を眺めていると、チリンチリンと鈴の音がした。
 直澄の顔がふっと緩む。
「玉藻、おいで」
 直澄が手招きすると、縁側から部屋へ入ってきた三毛猫は嬉々として主人の膝に乗った。
にゃあと鳴き、猫の玉藻は主人の膝で丸くなる。
 そうして穏やかなひとときを楽しむことしばし。

「殿、よろしいでしょうか」
 襖が開き、遠ざけていたはずの小姓が遠慮がちに姿を見せた。



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およし再び。3

慶喜は眉をしかめた。
 頭皮にわずかな痛みを感じるとともに、プツリと髪が一本抜けた。
「も、申し訳もござりませぬ……!」
 櫛に絡まるその黒髪を見るや、髪を梳かしていた女中がサッと青ざめてその場に平伏した。
 もつれた髪を強引に梳かそうとしたため、髪が抜けてしまったのだ。
 今宵はただでさえご機嫌斜めだというのに。
 慶喜がチラリとその女中を一瞥すると、彼女はますます縮こまってしまった。
 些細なことではあるが、何せ髪は女の命。
 上様のご寵愛を一身に受ける側室の勘気をこうむってしまっては、と若い女中は気が気でない。



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拗らせ副将軍と大和撫子

徳川光国は苦虫を噛み潰したような顔で大廊下間(おおろうかのま)に座していた。
 ここから遠く離れた溜間(たまりのま)の方角を時折見やってはますます眉間の皺を濃くする。
「どうした、腹でも痛いのか?」
 傍らに座る尾張藩主光義(みつよし)がからかい半分に問う。
「腹じゃない。別に痛くもない。ただ胸糞が悪い」
 溜間の方角を睨みつけたままそう言った光国に、ははぁと光義はしたり顔で笑った。



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およし再び。2

「本日はこれまでとする」
 広間に居並ぶ幕閣達に告げ、将軍家茂は立ち上がった。
 刀を捧げ持つ役の小姓が慌てて後を追い、別の小姓が幕閣の居並ぶ下座と将軍の座る上座を隔てる御簾をするすると下ろす。
「お待ちくださいませ、上様」
 立ち去ろうとする主君に松平春嶽が声をかけた。
「何じゃ?」
「畏れながら上様。横浜港の件、いまだ上様のお考えをお聞かせいただいておりませぬ」
 春嶽の声に、家茂は御簾の向こうでため息をついた。



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