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水月庵

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蜜の罠

山部立太子をめぐるいざこざの話。
なんかちょっとやらしくなった気もするけどこれくらいなら大丈夫だよねー!ウフフオッケー♪♪



「百川(ももかわ)、おまえ今何と言った」
 山部(やまべ)親王が咎めるような口調で言った。
 男の腕の中から半ば身を起こし、その切れ長の目で先程まで己を抱いていた男を睨む。
「井上(いのえ)皇后の『お相手』をしていただきたいと申し上げました」
 男ーー藤原百川は山部の眼光にも全く動じる様子を見せない。
 彼は秘め事の続きのような甘い声でとんでもないことを囁きながら、山部を再び腕の中に捕らえた。
 百川の上に半身を乗せるような形で寝そべる山部のうなじに触れ、そのまま背骨に沿って下のほうへと手を這わす。


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夢を見る

「山部(やまべ)には困ったものだ」
 盤上に黒石を置きながら白壁(しらかべ)様が仰った。
 俺は白石を指で挟んで弄びながら、次の一手を考えていた。あと一歩及ばずといった体で上手く負けるというのもなかなか頭を使う作業なのである。
 そのような俺の内心など知らぬ気に、白壁様は自らのご長男である山部様についてため息まじりに語る。
「あやつは儂が渡来人の女に産ませた息子なのだが、近頃浮かれ女のような真似をしておるというではないか。
 まったく、嘆かわしい」



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神は嘉するか

また軽率に時代を広げてしまった……

 はじめてあの方とお会いしたのは、藤原雄田麻呂様のところへ帰京の挨拶に伺った折だった。
「清麻呂どの、いろいろとご苦労だったな」
 私に向かい側の席を勧めながら、雄田麻呂様はその秀麗な顔に柔らかな笑みを浮かべた。
「雄田麻呂様こそ。配流中にあなた様からいただいたご厚情にどれほど救われたことか」
 一礼して雄田麻呂様の向かい側に腰を下ろし、私は言った。
 この言葉はもちろん雄田麻呂様に向けたもので、心の底からのもの。
 だが、恩人に感謝を述べるという大事な場面であるにもかかわらず、私の目は恩人ではなくその隣に侍っている男に向いていた。



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偶像に祈りを

718年。病に倒れた不比等を見舞う舎人親王の話。

「こんな顔もするんだな」
 俺の視線の先で、男が規則正しい寝息を立てている。俺は随分と白いものが多くなった彼の髪をさらりと撫でた。
 既に老境に差し掛かった男。しかし、彼のこんなに無邪気な顔などついぞ見たことがなかったので、不覚にも可愛いと思ってしまった。
「申し訳ありません。親王殿下のお出ましだというのに」
 眠っている男の妻、三千代どのがすまなさそうに俺に言う。
「かまわん。偉大なる右大臣藤原不比等どのの寝顔の鑑賞会というのも悪くない」
 冗談めかしてそう言うと、三千代どのも口許を袖で隠してくすくす笑った。
「殿下ったら。お人の悪いこと」
「何を今更」
「ま、そうでないと二十年も三十年もこの人と一緒に仕事などできませんわよねぇ」
 笑いながら三千代殿が言う。大した言いようである。
 にしても、そうか。もうそんなに経つのか。



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