忍者ブログ

水月庵

Home > ブログ > 古代史

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

古想ほゆ

鎌足→入鹿

葛城皇子、もとい、既に即位しているので天智天皇と呼ぶべきかー、は、ふと目を通していた木簡から顔を上げた。
そして、腹心の部下の名を呼ぶ。
「…鎌足」
が、それに答える声はない。

「今日は鎌足どのは来ておられませんよ、父上」
代わりに聞こえたのは、はきはきとした若い男の声だった。
葛城の息子、大友皇子の声だ。
言われて、葛城ははたと気付く。
そして、くすりと笑った。
「どうなさいました、父上」
大友はそんな父に、不思議そうに問う。
「…いや、すっかり忘れていたのだ。
 今日が乙巳の変の日だということを」
「ああ、そういえば、そうでしたね」
「私ももう年かな。
 乙巳の変の日を忘れていたなんてな」
葛城がそう言うと、大友が必死になって反論する。
「そ…そんなことありません!
 相変わらず父上はお美しくて、ご聡明でいらっしゃいます!」
必死になってそう言う大友の、自分とよく似た白皙を見て葛城は再びくすりと笑う。

「おまえ、いくつになった?」
「…え?
 二十歳に相成りましたが」
「そうか。
 乙巳の変の時の私と同い年だな」
言われて、大友は軽く目を伏せた。
「父上は今の私と同い年の時にすでに国を動かしておられたのに、私は未だ何もできず…。
 お恥ずかしい限りです」
大友はそう言って項垂れた。
「いや、そんなことを言いたかったのではないが…」
言いながら、葛城は木簡を机の端へ追いやった。
「鎌足がいないと、仕事が全然はかどらぬ」



拍手[1回]

PR

いつか

鎌足×中大兄(鎌足→入鹿)

ったく、よーやるよ。
鎌足は、木陰でぼーっとしていた。
ここ、飛鳥寺では只今蹴鞠の会が行われている。
鎌足が立っている場所とは少し離れた場所からは、「やぁ!」とか「おぅ!」とかいう威勢のいい声が聞こえてくる。
ああ、やってるな、といった感じである。
とはいえ、鎌足は全く蹴鞠には興味がなかった。
大体、みんなで仲良しこよしで鞠なんか蹴りあげて何が楽しいんだ。
勝敗のないスポーツなんざスポーツではない、というのが鎌足の持論だ。
いや、ことはスポーツに限らないが。
スポーツしてさわやかな汗を流す、などというが、そんな無駄な汗は流したくない、とも思う。
なんとも不健康な奴だ。



拍手[2回]

麗しき紅梅の君

古人→入鹿

「きゃーっっ、古人さまよっ!」

蘇我邸に、侍女達の黄色い声が響き渡る。

すらりとした長身。
やや垂れ気味だが、涼やかな目元に、形の良い唇。
偶然なのか計算なのか、冠から一筋零れ出た黒髪。
漂う甘い香りは彼の人が手にした梅が枝のものかそれとも彼自身のものか。

手折った梅の花を手に蘇我邸を訪れた古人大兄皇子は、いかにも女人の好みそうな色男、イケてるメンズ、すなわちイケメンであった。

古人は、うっとりと自分を見つめる侍女達に微笑みかける。

「やあ、僕の可愛い小鳥ちゃんたち」

不細工な、いや普通の男が口にしたならば、全身に鳥肌が立ち、瞬時に5、6メートルは引いてしまいそうな台詞である。
が、この男が言うと侍女たちの歓声はさらに大きくなるのだから不思議だ。



拍手[0回]

愛している

山背→入鹿

山背大兄王は大きなため息をついた。
手にはある書物を持っている。
偉大だった父、聖徳太子が作った十七条憲法だ。
ーー和を以て貴しとなす、か。
その内容に目を通しながら、山背はまたため息をついた。
そう、父がこれを作った時はまだよかった。
まだ自分が子供だったせいで、大人の思惑が分からなかっただけなのかもしれないが、
でもあのときはまだ蘇我氏と、この上宮王家の関係は上手くいっていたように思える。

…なのに。
一体いつからこんなに対立するようになったのだろう。
血縁も深い蘇我氏と上宮王家なのに、いつの間にこんなにも隔たってしまったのだろう。
あくまでも父、聖徳太子の天皇を中心とする国家をつくるという指針を貫き通そうとする上宮王家と。
皇室と婚姻関係を結び、自らの意のままになる天皇をたて、朝廷の実権を掌握しようとする蘇我氏と、それに甘んずる現皇室。
蘇我氏と上宮王家…ひいては現皇室と上宮王家は、もはや相容れることはないのかもしれない。
…正直そこまで嫌われるようなことをした覚えもないのだが。



拍手[1回]

ライバル、あるいは

くそ面白くもねぇ。
中臣鎌足は心の中でそう悪態を吐きつつ、そこら辺にあった石を蹴りあげた。
ったく、何なんだよ旻の奴。

あれは、つい先程のことだ。
「私の塾に蘇我入鹿ほど優秀な生徒はいない」
と、鎌足の師である僧・旻は言ったのだ。
なめやがって。
鎌足はまた心の中で悪態をついた。
たとえ身分は低かろうが、頭の良さでは良家の子息になんぞ負けたことはなかった。
この塾に来ても、勿論トップになる自信はあった。
なのに、よりにもよって蘇我入鹿に負けてるだと?!
あの、日本一の良家のボンボンなんぞに。
絶対嘘だ、嘘に決まってる。
旻はちょっと蘇我氏にへつらってるだけに決まってる。
ああ、何かムカついてきた。
というか、蘇我入鹿ってどんな奴なんだろう。
旻は唐から帰国したばかりなので、この塾が開かれたのも最近のことだ。
だから鎌足が通い始めたのも、勿論最近な訳で。
鎌足はまだ蘇我入鹿に会ったことがない。
知ってることといえば、大臣である蘇我毛人の嫡男で、今年22歳になることくらいだ。
はっ、どうせ変な奴に決まってる!
顔とかこんなで、性格とかも、まるで三流悪役みたいな感じで…。絶対足も超短いはずだ。
鎌足は頭の中に、自分が思い付く限りのマイナス要素を詰め込んだ男を想像してみた。
ふははっ、やな奴。
いや、やな奴はお前だ、鎌足。
そんなツッコミが聞こえたような気がしたが、気のせいだろう。



拍手[1回]

PAGE TOP