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水月庵

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唯一の人

突如受信してしまった捏造カップルの話。蘇我の分家の赤兄×宗家の次男で入鹿の弟、敏傍(としかた/物部大臣とも)の話です。

 気づけば、いつもその人を目で追っていた。
 皆は彼のことを蘇我入鹿の生き写しだという。
 確かに彼は入鹿さまの弟だから容姿が似通っていても何ら不思議はない。それに、透き通った大きな目、細い鼻梁、と特徴をひとつひとつ挙げていけば確かに生き写しだ。
 だが、初めて会ったときから私にとっては彼がたったひとりの人だった。
 誰かに似ているだとか、そのような観点で彼を見たことは一度もない。
 男同士で恋だの愛だのといった感情はよく分からないが、私は彼が死ねと言ったら喜んで死ぬくらいには彼……蘇我敏傍(そがのとしかた)が好きだ。



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妄想系男子の初夜未遂

「なかなか良いお家じゃない」
 新しい邸を一通り見回った母、五百重娘(いおえのいらつめ)がはしゃいだ声を上げる。
 俺、新田部親王はこの度目出たく加冠の儀を済ませ、大人の仲間入りをした。それに伴って住み慣れた大原の邸を離れ、新しい邸を構えた。
 そして今日、母と弟の麻呂を招いて邸のお披露目会をしているわけである。
 母は少女のようにはしゃぎながら、邸中のあらゆる部屋を開けて回っている。
 麻呂はといえば、高速ハイハイで真新しい邸を這い回り、隙あらば壁に落書きをしようとする。
 勘弁してくれ。
 墨は取れないんだ。

「新田部の成長は嬉しいけど、でもちょっと寂しくなるわね」
 ようやく居間に腰を落ち着けた母が少しだけしんみりとした口調で言う。
「いやいや、あれがいりゃ寂しくないでしょ」
 俺がそう言って顎で麻呂を指し示すと、母はふふっと笑った。



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狂気に関する手記

ちょっと胸糞悪いかもしれないです。

 泊瀬部内親王(はつせべないしんのう)。
 人々はわたくしのことをそう呼びます。

 わたくしは後に浄御原帝(きよみはらのみかど)、あるいは天武天皇と呼ばれる人の娘としてこの世に生を受けました。
 母は采女上がりの女性でございましたが、わたくしを含め四人の子女を産んでおりますことから、きっと深く愛されていたのでは、と恥ずかしながら思っている次第でございます。
 何ぶん特殊な家柄でございますから、並の家族のようにとは参りませんが、それでもわたくしは尊敬すべき父と優しい母と兄、そして可愛い弟妹に囲まれてすくすくと育ちました。
 かの戦乱の折、兄の刑部(おさかべ)は父に付き従って吉野へ参りましたが、女でしかもまだ幼いわたくしは弟妹とともに母の懐で守られ安穏と暮らしておりました。
 そして骨肉の争いの末、見事に勝利を収めた父は飛鳥浄御原宮にて即位し、それに伴ってわたくしも『皇女』と呼ばれる身の上になりました。



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二人だけの合図

新年を迎えて数日が経った頃。
 元日節会をはじめとする正月の宮中行事も何とか一区切りつき、久しぶりに宮中を退がってゆっくりできるな、と思いながら、俺は伸びをした。
 普段は歴史書の編纂作業その他諸々の行政活動に追われている俺だが、そもそも俺は親王という身の上、しかも一応皇家の重鎮と呼ばれる立場なので、宮中祭祀をおろそかにするわけにもいかず、通常業務が休みとなる正月も結局いつも通りに働くはめになった。
 しかも新年早々射礼(じゃらい)の儀式に引っ張り出されるというおまけつきで、だ。
 確かに弓は嫌いではないし、得意なほうであるとも思う。が、まあ疲れることは疲れる。何もしないでいいに越したことはない。



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雪のよるに

時刻は子の刻を過ぎ、まもなく丑の刻に差し掛かろうかというあたり。
 雪の降る寒い夜。
 門の方から微かに聞こえる話し声に、俺は目を覚ました。何を言っているのかはわからないが、声の主は若い女、恐らく我が邸の采女の声で、何やら困惑しているらしいことはわかった。
 俺は寝台から出て、解いた髪に上着を引っ掛けただけという格好で門を目指した。
 近づくにつれ、声の内容が少しずつ鮮明になってくる。
 采女の口から聞こえた『親王さま』という言葉に、自ずと早足になる。
 こんな時間に俺を訪ねてくる『親王さま』なんて、一人しかいない。



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