2015/09/23 Category : 古代史 孫はまだか 蘇我家の食卓「孫はまだか」 夕食の席で、いきなり何の脈絡も無く発せられた父、蝦夷の言葉に、入鹿は目を丸くした。「何だよ親父、薮から棒に。俺はまだ十代だぜ」「十八だろう? そろそろ子がいてもおかしくない年だ」「そりゃそうかもしれないけど。まだいいじゃん。正直今は仕事のほうが楽しいっていうか」「何なんだおまえ。草食系、いや絶食系男子か」 デザートの蘇を頬張っていた入鹿は、父の言葉に盛大にため息をついた。「ほっとけ」 つづきはこちら [2回]PR
2015/09/23 Category : 古代史 千年先の世界 鎌足×中大兄、鎌足→入鹿もうすぐこの国は、沈む。鬼の仕業だと人は言う。「私は間違っていたのか」皇子は呟く。「私はただ、この国を守りたかった」白い頬を涙が伝う。「唐にも……どの国にも負けぬ国を作ろうと……。 日出づるこの倭を担おうと私はずっと走り続けてきた」どこまでも続く黒い大海原を不知火が漂う。その光景は、ただひたすらに美しく私の目に映った。「鎌足、私は間違っていたのか」 つづきはこちら [2回]
2015/09/23 Category : 古代史 お願い 山背×入鹿「あなた、山背さま」 苛ついた様子の女の声。声の主は、私の異母妹であり妻でもある舂米(つきしね)だ。 脇息に凭れ掛かって外の景色を見るとはなしに見ていた私は、身を起こし、のろのろと妻に向き直った。「山背さま、どうかご決断を。 境部磨理勢どのは今、我が弟、泊瀬の邸へ立てこもっております。 もはや一刻の猶予もありません」 艶やかな黒髪を一分の隙もなく結い上げ、背筋をピンと伸ばして座る妻は、そう言ってまっすぐに私を見据える。「おまえは私に謀反人になれと言うのか……」 力なくそう呟いた私は、妻の目にはさぞ腑抜けに映っていることだろう。 つづきはこちら [2回]
2015/09/23 Category : 古代史 古想ほゆ 鎌足→入鹿葛城皇子、もとい、既に即位しているので天智天皇と呼ぶべきかー、は、ふと目を通していた木簡から顔を上げた。そして、腹心の部下の名を呼ぶ。「…鎌足」が、それに答える声はない。「今日は鎌足どのは来ておられませんよ、父上」代わりに聞こえたのは、はきはきとした若い男の声だった。葛城の息子、大友皇子の声だ。言われて、葛城ははたと気付く。そして、くすりと笑った。「どうなさいました、父上」大友はそんな父に、不思議そうに問う。「…いや、すっかり忘れていたのだ。 今日が乙巳の変の日だということを」「ああ、そういえば、そうでしたね」「私ももう年かな。 乙巳の変の日を忘れていたなんてな」葛城がそう言うと、大友が必死になって反論する。「そ…そんなことありません! 相変わらず父上はお美しくて、ご聡明でいらっしゃいます!」必死になってそう言う大友の、自分とよく似た白皙を見て葛城は再びくすりと笑う。「おまえ、いくつになった?」「…え? 二十歳に相成りましたが」「そうか。 乙巳の変の時の私と同い年だな」言われて、大友は軽く目を伏せた。「父上は今の私と同い年の時にすでに国を動かしておられたのに、私は未だ何もできず…。 お恥ずかしい限りです」大友はそう言って項垂れた。「いや、そんなことを言いたかったのではないが…」言いながら、葛城は木簡を机の端へ追いやった。「鎌足がいないと、仕事が全然はかどらぬ」 つづきはこちら [1回]
2015/09/23 Category : 古代史 いつか 鎌足×中大兄(鎌足→入鹿)ったく、よーやるよ。鎌足は、木陰でぼーっとしていた。ここ、飛鳥寺では只今蹴鞠の会が行われている。鎌足が立っている場所とは少し離れた場所からは、「やぁ!」とか「おぅ!」とかいう威勢のいい声が聞こえてくる。ああ、やってるな、といった感じである。とはいえ、鎌足は全く蹴鞠には興味がなかった。大体、みんなで仲良しこよしで鞠なんか蹴りあげて何が楽しいんだ。勝敗のないスポーツなんざスポーツではない、というのが鎌足の持論だ。いや、ことはスポーツに限らないが。スポーツしてさわやかな汗を流す、などというが、そんな無駄な汗は流したくない、とも思う。なんとも不健康な奴だ。 つづきはこちら [2回]