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水月庵

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ようこそ

ご訪問いただきありがとうございます。
ここは日本史(おもに飛鳥〜奈良、江戸初期、幕末明治)を舞台にした妄想BL小説と、その他いろいろな小説を置いているブログサイトです。
ほぼ100%管理人の妄想の産物です。
それしかありません。
あと、すごくマイナーです。

主な取り扱いは、
飛鳥→蘇我入鹿中心
奈良→舎人親王中心、後期は山部王(のちの桓武)中心
江戸→徳川光国(光圀)とその兄の松平頼重中心
幕末明治→渋沢栄一と徳川慶喜
古代史創作以外の小説では、古代エジプト風などこれまたあまりメジャーじゃないジャンルで萌えています。
強気な女装男子、年下攻などが好物です。

とにかく舎人親王と松平頼重を推してます。

もし、いいやん! と思っていただけたら、コメントなどいただけると喜びます。

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大江戸摩天楼

扉を開け放ち、露台に出るや否や強い風が前髪をなぶった。思わず目を閉じる。風がおさまるのを見計らって目を開けると、薄曇りの空の下に広がる巨大都市。ほんの数十年前にはただの寒村だったなど信じられない。
 いずれ自分のものになるであろうその都市を眼下に見下ろしながら、少年は自分の左手首に巻かれた包帯をするりとほどいた。そこにはざっくりと刃物で切り裂いた痕があった。もうほぼ瘡蓋になっている。その傷にそっと指を走らせる。何を思ったか瘡蓋を爪先で少しめくってみれば、ピリピリとした痛みが走った。めくれたところに血が滲む。
「あーあ、思い切りが足りなかったなぁ」
 欄干に体重を預けて、遥か高みから街を見下ろしつつ独りごちる。

 ここは江戸城天守閣。



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将軍と海





明治二年秋、謹慎を解かれた頃の慶喜とたまたま出会った庶民の話



 秋の昼下がり。時刻はまもなく申の刻を迎える頃だろうか。
 俺は浜辺をぶらぶら歩いていた。朝方は漁へ出る、あるいは漁から帰ってくる俺みたいな漁師やその釣果を買い求める商人で賑わい、また、夏の間は水遊びをする子供達の歓声が響くこの浜辺だが、随分と風の冷たくなったこの季節のこの時間じゃあすっかり静かなものだ。
 寄せては返す波の音や、風にさざめく松の葉音がやけに大きく聞こえる。わずかに傾いた日の光が思ったより眩しくて、俺は思わず手を額にかざして目を細めた。
 ひと気のないこの時間の浜辺が、俺はけっこう好きだ。死後の世界ってこんな感じだろうか、などと柄にもなく文学的な感傷に浸ったりしてしまう。
 砂が草履と足裏の隙間に入り込んでくるのも構わず海へ向かってさくさく歩いていた俺は、しかしいくらも進まぬところで足を止めた。
 珍しいこともあるものだ。
 海辺には先客がいた。



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間違いと純愛

その日は、春だというのにやけに蒸す日だった。まだ梅雨入りには些か早いはずだが。
 大奥の将軍御座所で一人、昼寝を決め込んでいた家光は異様な湿気と、そして人の気配を感じてパチリと目を開けた。
「あら、お目覚めですの」
 もう少し寝顔を見ていたかったのに、と、いつの間にやら寝そべる家光の隣に座ってその寝顔を盗み見していたらしい女は笑った。
「いつからそこに」
 相手が自分の側室であるお万だと見て取ると、家光の表情もふっと和らぐ。ともすればもう一度寝入ってしまいそうな声で彼女に問うた。
「今来たばかりですわ。珍しくお一人で居られると聞いたもので。今日は蒸しますわね」
 お万が手にした扇を広げ、家光に風を送る。室内の湿気を吹き飛ばすような軽やかな涼風が家光の頬をくすぐった。



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烈公さんちの美人姉妹




「姉妹」ではない



 水戸徳川家の上屋敷である小石川邸の廊下を、十ほどの年齢の子供が二人、連れ立って歩いていた。
「なあ五郎」
 一方が傍らを歩くもう一方に話しかける。
「どうした、七郎」
「うん……なんか落ち着かないなって思って」
 その黒い瞳をきょろきょろと所在無げに動かしながら七郎と呼ばれた少年は言った。
 もう片方──五郎はそんな彼の様子にふふっと笑う。
「何言ってるんだよ。自分の家なのに」
「そうはいってもさぁ」
 七郎は床に視線を落とす。塵ひとつ落ちておらず、顔が映りそうなほどよく磨き上げられた床。
 確かに五郎の言う通り、ここは自分達の家である。
 五郎と七郎こと水戸の五郎麻呂と七郎麻呂は同い年の兄弟で、水戸徳川家の前藩主徳川斉昭の子息だ。
 だが、江戸の華美な風俗に染まらぬように公子達はみな領国である水戸で養育すべしとの斉昭の方針で産まれてすぐに水戸へ移された二人には当然ながらこの邸で暮らした頃の記憶はない。

「にしても父上は五郎に一体何の用なんだろうな。いきなり江戸に来いなんて」



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