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水月庵

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禁じたはずの遊び

家茂くんが少し暴力的だしこいつらほんとどうしようもないので注意

夜半のことである。
 一橋慶喜が京での宿所としている東本願寺を訪ねた将軍家茂は、廊下ですれ違った思わぬ先客に軽く目を瞠った。
「これは上様。こないなところでお会いするとは奇遇におざりますなぁ」
 壮年のその人物は柔和に笑って慇懃に頭を下げる。
 中川宮朝彦親王。
 時の帝の懐刀として、また公武合体派の領袖として権勢を振るう人物である。攘夷派の者共からは魔王と呼ばれ忌み嫌われているが、その反面幕府にとっては心強い味方ともいえる。
「ここで何をしておられた」
 が、鉢合わせた場所が場所ということもあり、知らず不穏な物言いになってしまう。
「そない怖いお顔せんとっておくれやす」
 柔らかい上方言葉と秀麗な顔が何やら逆に魔王めいて恐ろしい。
「気になります? 私が、一橋はんと真夜中に二人っきりで何をしていたか」
 魔王に意味ありげに微笑まれ、家茂は怯むまいとその目を真正面から見返し、笑い返した。



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夏の骸

「市井の様子を見てみたい」
 暑い夏の昼下がり、二条城黒書院でのことである。
 室内にいてもじっとりと汗ばむような盆地独特の暑気から少しでも逃れようと、手を団扇のようにパタパタさせていた慶喜は、突然発せられた年下の主君の言葉にぴたりと手を止めた。
「……しかし、将軍御自らが町に下りられるとなると準備も大仰になりますし、今はそのようなことに割いている時間も人も金も……」
 まもなく長州との戦が始まろうかというときである。
 今日は何故だか予定が何もなく、こうして慶喜も、彼の主君である家茂もだらだらと寛いではいるが、だからといって将軍が大仰な物見遊山に興じているような場合では決してない。
 慶喜がそう言って反対すれば大抵の場合家茂は素直に意見を取り下げるのだが、今日は違った。

「では、大仰でなければ良いのだな」



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およし御寮人騒動

気怠げな様子で身を起こし、慶喜は枕辺の煙管を手に取った。
火をつけ、煙を吸い込む。
しばしその味と香りを楽しんだ後、これまた気怠げに吸い口を唇から離した。
僅かに開いた薄い唇から紫煙がくゆる。
燭台の灯りのもとを所在無げにたゆたい、その煙は幾ばくもなく消えていった。
二口目を吸おうと動かしたその手を、後ろから伸びた男の手が遮った。
慶喜を追うように自らも身を起こした男は後ろから慶喜の身体を抱いた。
男は慶喜の手ごと煙管を自分の口元に手繰り寄せ、そのまま煙管を咥えると先程の慶喜と同じように紫煙を吐いた。
「そなたは誰に対してもこうなのか」
男が言う。
二人とも素肌に襦袢を引っ掛けただけの姿である。
「こう、とは?」
「ことが終わったらすぐに煙草を吹かす。素っ気ない男だ。
女人に対してもそうなのか?
それとも」
甘えるように慶喜の肩に顎を乗せ、男は言う。
「終わった後まで私にベタベタされるのは上様とて本意ではないかと思いまして」
慶喜は苦笑した。



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帰国

その日、栄一は初めて静岡の地に降り立った。
主君に帰参の報告をするためだ。
遥か昔、二代将軍徳川秀忠公の生母、西郷の局が住まいしたといわれる古刹、宝台院。
かつて征夷大将軍としてこの国を統べていたその人は今、この寺院に軟禁されている。

「徳川昭武である。上様……いや、兄上に帰国の報告をしに参った」
栄一と共にやって来た徳川昭武が、入口を固める兵士達にそう名乗ると、彼らは意外にも柔らかな態度で中へ入るよう二人を促した。



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朝と珈琲

慶喜は微睡みから目を覚ました。
昨夜の行為のせいで違和感の残る下腹部を庇いながらゆっくりと身を起こす。

「おい起きろ、栄一」
隣で眠る男の肩に手を伸ばした。が、何とは無しにその手を寸前で止める。
安心しきったようにすやすやと眠る年下の男。ややふっくらとした丸顔に垂れ目がちの目。無邪気な寝顔はどこかあどけなくさえあった。
肩を揺さぶろうと伸ばした手は当初の目的よりもやや上を舞い、男のふさふさとした短髪の上を触れるか触れぬかのさり気なさで通り過ぎた。
あれはもう何年前になるだろう。彼は慶喜の命で遣欧使節として欧州へと旅立った。その折に彼は髷を落としたのだが、その姿を写真に撮って細君に送った結果散々な言われようでしたよ、と情けない顔で言っていたことをふと思い出した。



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