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水月庵

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一瞬の永遠


幕末の備中松山藩の2人に突如はまったので書きました。
藩主勝静ちゃんとその師で腹心の山田安五郎(方谷)先生の話。



 秋の空はどこまでも高い。
 霧深き備中松山も、今日ばかりは抜けるような晴天だった。まるで、藩のこれからを寿ぐように。
 河原にはその天を貫くばかりに紙の束がうず高く積まれていた。
 その周囲を大勢の領民がぐるりと取り囲み、前代未聞の見世物の始まりを固唾を飲んで今か今かと待っている。
 川面には大きな船が浮かべられ、そこには藩主板倉勝静が乗っていた。
 赤い毛氈の上に置かれた椅子に腰掛け、日除けの傘の下でじっと目を閉じている。
 紙の束を積み終えた家臣は、船上の藩主の傍に控える壮年の男に大振りな動作で合図をした。
 準備が終わったことを知るや、壮年の男は藩主に問うた。
「殿、よろしゅうございますか」
 勝静が静かに目を開く。
 スッと男に視線を流し、微笑んだ。
「どうぞ。合図は先生が」
 促され、男は紙の束と民草の方へと向き直った。
 手を挙げる。
「火を放て」
 低い声が河原に響いた。



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およし再び。3

慶喜は眉をしかめた。
 頭皮にわずかな痛みを感じるとともに、プツリと髪が一本抜けた。
「も、申し訳もござりませぬ……!」
 櫛に絡まるその黒髪を見るや、髪を梳かしていた女中がサッと青ざめてその場に平伏した。
 もつれた髪を強引に梳かそうとしたため、髪が抜けてしまったのだ。
 今宵はただでさえご機嫌斜めだというのに。
 慶喜がチラリとその女中を一瞥すると、彼女はますます縮こまってしまった。
 些細なことではあるが、何せ髪は女の命。
 上様のご寵愛を一身に受ける側室の勘気をこうむってしまっては、と若い女中は気が気でない。



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およし再び。2

「本日はこれまでとする」
 広間に居並ぶ幕閣達に告げ、将軍家茂は立ち上がった。
 刀を捧げ持つ役の小姓が慌てて後を追い、別の小姓が幕閣の居並ぶ下座と将軍の座る上座を隔てる御簾をするすると下ろす。
「お待ちくださいませ、上様」
 立ち去ろうとする主君に松平春嶽が声をかけた。
「何じゃ?」
「畏れながら上様。横浜港の件、いまだ上様のお考えをお聞かせいただいておりませぬ」
 春嶽の声に、家茂は御簾の向こうでため息をついた。



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およし再び。1



まさかの女化なので苦手な方はお気をつけください…!




 盃に注がれた酒を飲み干した瞬間、体が熱くなった。熱い、いや、痛い。
「おまえら……酒に、いったい、何を……」
 盃を取り落とし、倒れこみながら、己の向かい側に座る二人の男に問い質す。
 彼らはまばたきもせず、じっと倒れこむ男ーー慶喜を見ている。
「何とか言えよ……、容保、春嶽……!」
 男達の名を呼ぶ。
 わからない。確かにこの二人とは仲良しこよしではないかもしれないが、幕政を担う者同士それなりに付き合ってきたはずで、盃に何か妙なものを混ぜられるような間柄ではなかったはずだ。
 だいたい、こんなことをしてこの二人に何の利があるというのか。
 まくし立てたかったが、上手く声が出ない。
 畳の上に倒れ、薄れゆく意識の中、二人が言い合う声が断片的に聞こえた。
「効果……確か……」
「性転換……秘薬……越前……蟹……雌雄……変え……」
「豚……効く……?」
「不明……試し……価値はある……」
 断片的というか、断片的ではあるのだが大事なところはだいたい把握できたような気がする。
 蟹。そうだ、越前の蟹は美味かった。
 そう思ったのを最後に、慶喜は意識を失った。



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木乃伊になった木乃伊取り

家茂死後の容保と慶喜。
ややおどろおどろしいので少しだけ注意。

 大坂城は未曾有の混乱に包まれていた。ここ半月の間、ずっとである。
 さる慶応二年七月二十日、将軍家茂が継嗣無きままこの城で没した。数え二十一歳の若さであった。
 その死は秘されてはいるがもはや公然の秘密。一刻も早く新たなる主を、と城中は浮き足立っていた。
 無論、この状況で幕府を背負って立つことのできる人間などたった一人に限られる。
 会津中将こと松平容保は控えの間で、その『たった一人』からの返答を待っていた。
 時折、苛立ったように扇子で床をコツコツと叩く。

「失礼いたします」
 一人の少年が控えの間に入り、容保の前に平伏した。


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