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水月庵

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想いの花

山背×入鹿

宴席を離れて、山背大兄王は外へ出た。
部屋の中からは賑やかな楽の音や笑い声が聞こえる。

今日は蘇我氏の館で藤の宴が開かれたのだ。
今日の宴には、山背の10歳違いの従兄弟で15歳になる入鹿も出席 しているはずだ。
なのに…。
先程から姿が見えない。

どこへ行ったのだろう…。
そんなことを考えながら山背は久しぶりに一人でふらふらと歩いてい た。

「…誰だ?」
ほっつき歩いていた山背の耳に誰何の声が聞こえた。
山背は振り返った。



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涙の場所

山背+入鹿

「あ、いた」
後ろから、まだ声変わりをしていない少年の声がした。
「誰だ」
その声の主が誰なのか大体見当は付いているものの、山背大兄王はそう誰何の声をあげた。
「俺だよ、俺」
「『俺』じゃ分からんだろ」
山背はそう言いながら面倒くさそうに後ろを振り返った。
やっぱり…。山背はため息をついた。
「一体どうしたんだ、入鹿。
 生憎と今の私にはおまえの相手をするような余裕はないんだが」
少年は案の定、山背の10歳年下で今年12歳である従弟の蘇我入鹿だった。
彼は時の権力者である大臣、蘇我馬子の孫にもあたる。



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燦國恋歌 第1章

あれ、なんかふわふわする……。

ゆっくり開けた俺の目に映ったのは、吊り灯籠。
しかもなんか金とかで装飾された、やたら豪華な。

…なぜ灯籠?
俺、海辺にいたんだよな?
また夢でも見てんのか?

俺はもう一回目を瞑った。

相変わらず背中にはふわふわした感触。

多分この背中のふわふわした感触、これは布団だろう。
しかもこの肌触りは絹。

掛け布団はたぶん羽毛布団。

肌触りも寝心地も最高だ。

今髪が濡れてるんだが、濡れた髪が直接枕カバーに付かないように、枕の上にはタオルのような布を敷いてくれている。

寝心地最高……って、そうじゃなくて!

何で俺、寝てんの?
しかもこんな高級寝具、持ってないし、合宿所にもこんないいものはなかった。

大体、ここどこなんだよ?!

目だけを動かして周りを見ると、朱塗りの柱が目に入った。
吊り灯籠といい、調度類といい、何か中華風だ。
しかも、古代中国風。

俺はぎゅーっとほっぺたを抓ってみた。
……痛い。

目、覚めねーよ。

とかなんとかやっていると、目の前の大きな扉が開いて男の人が一人入ってきた。
タオル状の布で、濡れた長い黒髪を拭きながら。

人が来たのに悠々と寝てるのも失礼かなと思い、俺は身を起こす。



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燦國恋歌 序

俺は、全速力で走っていた。

やたらゴテゴテしたシルクの衣装をからげながら。
朱塗りの柱と、所々に配された金色の灯籠が美しい中華風の回廊を。

そして、ある部屋の前で立ち止まると、呼吸を整えることもせず、勢いそのままに観音開きのその扉を豪快に開け放つ。

中からは、苦そうな漢方薬の匂いがした。
そして、中には医者やら女官らしき人やら、とにかく人がたくさん居た。
その全員が、何事かと扉のほう、すなわち俺のほうを一斉に見る。
だけど、その大勢の人の視線すら、今の俺は全く眼中になかった。

一心不乱に、その部屋の中心に置かれた寝台へ歩み寄る。
貴人のものに相応しい、豪奢なしつらえの寝台。
でも、そこに横たわる愛しいその人は、あまりにもか細かった。
俺は寝台の脇に膝をついた。
そして、思わず涙が出そうなくらいか細いその人の手を取り、両手でしっかりと包み込む。
その手の甲を撫でさすりながら、俺はその人の名を呼んだ。……いや、呼ぼうとした。



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燦國恋歌 概要

あらすじ

現代日本に生きる高校生、市橋千早は雷に打たれたショックで異世界トリップしてしまう。

目を開けるとそこは、燦国という中華風の帝国。
そして、傍らにいる美形は燦国の皇帝だった。

日本へ戻る手立ては見つからず、とりあえず千早は王宮に置いてもらえることになったが……。

『燦國恋歌』の舞台設定について。



燦国は、巨大な大陸、天海(てんかい)大陸の北東部に位置する。
とても歴史の古い帝国で、かつては大陸の大半を占める巨大国家だった。
首都は奏江(そうこう)。

皇室の姓は希(き)氏。

国家元首である皇帝が政治を行うための補佐役として、
左丞相と右丞相(いわゆる宰相職)がいる。
右丞相のほうが偉いが、右丞相は代々皇族が就任することになっているので、臣下の最高位は左丞相。
その他、その下に実務機関がいくつかある。

軍の最高司令官は、大尉と呼ばれる。

南の国境を景(けい)、北の国境を瑾(きん)という大国とそれぞれ接している。

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