2015/10/12 Category : 燦國恋歌 燦國恋歌 第2章 ふぅ。息をつき、俺は帚を持つ手を止めた。じっとりと額にしみ出してきた汗を帚を持っていないほうの、手の甲で拭う。……暑い。俺が燦へ異世界トリップしてから今日で丸一ヶ月。季節は微妙に秋へと移り変わっているものの、まだまだ暑い。この燦って国は、気候は日本と似ているようだ。四季がある。梅雨もあるらしいし、もうすぐしたら台風もやってくるそうだ。そして、残暑が厳しい。本当、勘弁してくれよこの蒸し暑さ。思いながら、俺はまだまだギラギラしている太陽を目を細めつつ仰いだ。俺は今、薪を割ったり皇宮の庭の掃き掃除をしたりと、まぁ有り体に言えば召し使いって奴をやってる。皇宮にいるつもりなら働け、とあの美しい玲慶陛下、の弟である煌仙さんが言ったからだ。ちなみに、陛下とは最初に会った時以来全然会えていない。まあ召し使いと皇帝じゃ滅多に会うこともないんだろうが。たまには会いてぇな……なんて思ったり。「ちょっと」声が聞こえた。でも、多分呼ばれてるのは俺じゃないだろう。そう思って気にせず掃除を実行していると、また呼ばれた。「ちょっとそこの格好いいお兄さん!」くるり。反射的に俺は振り返った。現金だね俺も。 つづきはこちら [0回]PR
2015/10/12 Category : 燦國恋歌 燦國恋歌 第1章 あれ、なんかふわふわする……。ゆっくり開けた俺の目に映ったのは、吊り灯籠。しかもなんか金とかで装飾された、やたら豪華な。…なぜ灯籠?俺、海辺にいたんだよな?また夢でも見てんのか?俺はもう一回目を瞑った。相変わらず背中にはふわふわした感触。多分この背中のふわふわした感触、これは布団だろう。しかもこの肌触りは絹。掛け布団はたぶん羽毛布団。肌触りも寝心地も最高だ。今髪が濡れてるんだが、濡れた髪が直接枕カバーに付かないように、枕の上にはタオルのような布を敷いてくれている。寝心地最高……って、そうじゃなくて!何で俺、寝てんの?しかもこんな高級寝具、持ってないし、合宿所にもこんないいものはなかった。大体、ここどこなんだよ?!目だけを動かして周りを見ると、朱塗りの柱が目に入った。吊り灯籠といい、調度類といい、何か中華風だ。しかも、古代中国風。俺はぎゅーっとほっぺたを抓ってみた。……痛い。目、覚めねーよ。とかなんとかやっていると、目の前の大きな扉が開いて男の人が一人入ってきた。タオル状の布で、濡れた長い黒髪を拭きながら。人が来たのに悠々と寝てるのも失礼かなと思い、俺は身を起こす。「ん……?」俺は目に飛び込んできたその人の姿に違和感を覚えた。男のくせに、とても綺麗な人だった。きめの細かい象牙色の肌に、やや吊り気味の切れ長の目。アジアンビューティー。まさにそんな感じ。年は俺より五歳ほど上、二十代前半、といったところだろうか。で、身長はたぶん俺よりは低いが、低身長でもない。170ちょいくらいかな。……って、そうじゃなくて!そう、問題はその年齢や身長、そして美しい顔ではなく、服だ。だって、この人の服……。これとよく似たものを、世界史の資料集で見たことがある。なんか、水墨画とかに描かれている仙人的な感じ。……マジでここ、どこだよ?日本……だよな?なんかもう俺、泣きたくなってきた。そんな俺の様子に気づいた先程の人が、髪を拭いていたタオルをその辺に置き、慌てて駆け寄ってきてくれる。「どうした、どこか痛いのか?」その人は耳に心地よい、柔らかい声をしていた。彼は、俺の隣に腰を下ろし、俺の背中を撫でてくれた。よしよしって、まるで弟や子供にするように。大丈夫だって言ってくれるかのように。何が起こったか分からないこの状況は変わらない。変わらないんだけどさ。なんか、そうやってあやされてる(?)と不思議なことに不安がなくなってきた。 つづきはこちら [0回]
2015/09/23 Category : 燦國恋歌 燦國恋歌 序 俺は、全速力で走っていた。やたらゴテゴテしたシルクの衣装をからげながら。朱塗りの柱と、所々に配された金色の灯籠が美しい中華風の回廊を。そして、ある部屋の前で立ち止まると、呼吸を整えることもせず、勢いそのままに観音開きのその扉を豪快に開け放つ。中からは、苦そうな漢方薬の匂いがした。そして、中には医者やら女官らしき人やら、とにかく人がたくさん居た。その全員が、何事かと扉のほう、すなわち俺のほうを一斉に見る。だけど、その大勢の人の視線すら、今の俺は全く眼中になかった。一心不乱に、その部屋の中心に置かれた寝台へ歩み寄る。貴人のものに相応しい、豪奢なしつらえの寝台。でも、そこに横たわる愛しいその人は、あまりにもか細かった。俺は寝台の脇に膝をついた。そして、思わず涙が出そうなくらいか細いその人の手を取り、両手でしっかりと包み込む。その手の甲を撫でさすりながら、俺はその人の名を呼んだ。……いや、呼ぼうとした。 つづきはこちら [0回]
2015/09/23 Category : 燦國恋歌 燦國恋歌 概要 あらすじ現代日本に生きる高校生、市橋千早は雷に打たれたショックで異世界トリップしてしまう。目を開けるとそこは、燦国という中華風の帝国。そして、傍らにいる美形は燦国の皇帝だった。日本へ戻る手立ては見つからず、とりあえず千早は王宮に置いてもらえることになったが……。『燦國恋歌』の舞台設定について。燦国は、巨大な大陸、天海(てんかい)大陸の北東部に位置する。とても歴史の古い帝国で、かつては大陸の大半を占める巨大国家だった。首都は奏江(そうこう)。皇室の姓は希(き)氏。国家元首である皇帝が政治を行うための補佐役として、左丞相と右丞相(いわゆる宰相職)がいる。右丞相のほうが偉いが、右丞相は代々皇族が就任することになっているので、臣下の最高位は左丞相。その他、その下に実務機関がいくつかある。軍の最高司令官は、大尉と呼ばれる。南の国境を景(けい)、北の国境を瑾(きん)という大国とそれぞれ接している。 [0回]