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水月庵

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ナイルの雫 序

ヒッタイト帝国の宮殿に、とても元気な…少しばかり元気過ぎるくらいの産声が響いた。

「とても元気な皇子さまですわ、皇妃さま」
産まれたばかりの皇子を抱いた若い女が満面の笑みで産婦--皇妃に告げる。

「そう…男の子……」
皇妃は消え入りそうな声で呟いた。

「皇妃さま…?」
皇妃のか細い声に女ははっとした。

やはり、この病弱な皇妃にお産は負担が大きすぎたのか。

「シアラ」
シアラ、と呼ばれたその若い女は皇妃の声に顔を上げた。
彼女を呼ぶ皇妃の声は相変わらずか細いが、先程のそれよりはしっかりしている。
「たぶん私、もうすぐ死ぬわ」
皇妃はぽつりと言った。

「お…皇妃さま、何ということを!
 いくら難産だったからって」

シアラの慌てた声には応えず、皇妃は続けた。

「私が亡国の王女だということは知ってるわよね?
 つまり、私が死んだらこの子を後見してくれる人は誰もいないってこと。
 後ろ盾がない皇子なんて、いつ何時暗殺されるか……」
だから、と皇妃は言った。

「この子は皇子ではありません。…皇女です
 …女の子だったら、醜い政権争いに巻き込まれたりしないもの」

皇妃の尋常ではない言葉に、シアラは必死に反論の言葉を探した。

だが。

「分かりました」
シアラは言った。
何を馬鹿なことを、と言いたかった。
だが、皇妃の命の灯が消えかかっていることを否定できなかった。

「皇子さま…いえ、皇女さまは、私が必ずお守りいたします」
涙を堪えてシアラは皇妃に約束した。

その言葉を聞くと、皇妃は安心したように瞳を閉じた。

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ナイルの雫 概要

あらすじ

エジプトの若き王、ジェセルカラーのもとにヒッタイトの皇女、アイリが嫁いでくる。
天下一の美貌と知性を兼ね備えた彼女。
けれど実は彼女、男だった?!
エジプト屈指の名君、ジェセルカラー王と、「ナイルの雫」と称される異国より来たりし美姫、アイリ王妃の物語。
古代オリエント風な小説。

※エジプト18王朝あたりをモデルにはしておりますが、史実とはまったく関係ないフィクションです。
※BL要素含みます

登場人物

●アイリ●
ヒッタイト帝国の皇女(実は皇子)
男だが色々あってエジプトのジェセル王に嫁ぐ。
比類なき美貌と知性を持ち、エジプトで絶大な人気を誇る。
けれど性格は割と男前だったりする。
20歳。

●ジェセルカラー●
通称、ジェセル。
エジプト王国の若き王(ファラオ)
若いながらも善政を敷き、賢君の呼び声が高い。
しかしながら意外とヘタレで憎めない奴。
17歳。

●キアン●
将軍。ジェセルの兄のような存在。
22歳。

●シェンナ●
ヒッタイト皇妃(タワナアンナ)
病気の皇帝に代わり、実質的に帝国を牛耳っている。

●カラン●
ヒッタイト帝国の皇子。
シェンナの息子でアイリの異母弟。
15歳。

●テオ●
アイリとは乳兄妹の間柄。
アイリのエジプトへの輿入れにも同行した。

●セヌウ●
エジプトの宰相。
温和な性格で、宮廷女官の人気投票ではお兄さんにしたい人No.1

●メイ●
アイリの侍女。
ナイスバディのお姉さん。

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