2015/09/23 Category : ナイルの雫 ナイルの雫 序 ヒッタイト帝国の宮殿に、とても元気な…少しばかり元気過ぎるくらいの産声が響いた。「とても元気な皇子さまですわ、皇妃さま」産まれたばかりの皇子を抱いた若い女が満面の笑みで産婦--皇妃に告げる。「そう…男の子……」皇妃は消え入りそうな声で呟いた。「皇妃さま…?」皇妃のか細い声に女ははっとした。やはり、この病弱な皇妃にお産は負担が大きすぎたのか。「シアラ」シアラ、と呼ばれたその若い女は皇妃の声に顔を上げた。彼女を呼ぶ皇妃の声は相変わらずか細いが、先程のそれよりはしっかりしている。「たぶん私、もうすぐ死ぬわ」皇妃はぽつりと言った。「お…皇妃さま、何ということを! いくら難産だったからって」シアラの慌てた声には応えず、皇妃は続けた。「私が亡国の王女だということは知ってるわよね? つまり、私が死んだらこの子を後見してくれる人は誰もいないってこと。 後ろ盾がない皇子なんて、いつ何時暗殺されるか……」だから、と皇妃は言った。「この子は皇子ではありません。…皇女です …女の子だったら、醜い政権争いに巻き込まれたりしないもの」皇妃の尋常ではない言葉に、シアラは必死に反論の言葉を探した。だが。「分かりました」シアラは言った。何を馬鹿なことを、と言いたかった。だが、皇妃の命の灯が消えかかっていることを否定できなかった。「皇子さま…いえ、皇女さまは、私が必ずお守りいたします」涙を堪えてシアラは皇妃に約束した。その言葉を聞くと、皇妃は安心したように瞳を閉じた。 [1回]PR Comment0 Comment Comment Form お名前name タイトルtitle メールアドレスmail address URLurl コメントcomment パスワードpassword